上武大学・岩政大樹監督

 現在、上武大学サッカー部で監督を務める元サッカー日本代表・岩政大樹氏。現役時代は、常勝時代の鹿島アントラーズ、タイそしてJ2 ファジアーノ岡山、関東社会人リーグでプレーをし、引退後は中高年代のサッカー部(それもできたばかりの)を指導するなど、さまざまなカテゴリのサッカーを体感してきた。

 発売早々重版が決まるなど、注目を集める新刊『FootballPRINCIPLES 躍動するチームは論理的に作られる』(JBpress刊)は、そんな経験から学んだ「サッカーの原則的」なことをまとめている。

 今回は「世界を知っている」などをキーワードに、同書にも記された岩政氏の考える「育成論」を深堀りする。

ーー育成世代をけん引するのが日本代表です。森保一監督から世界を知る監督に変えれば、日本代表も強くなる可能性があると思いますか?

 面白い質問ですね。「世界」を知っているということは、どこを知っているということなんでしょう。そもそも、日本と世界というのは、どこが違うんでしょう。

 実は最近「島の研究」をしているんですが(筑波大学の院にも通っている)、島の人たちって、毎日自分たちの領域を、海をへだてて刷り込まれているんです。「島」と「それ以外」が明確に線引きできるから、愛着がすごく湧いて、向こうの側は遠くに感じられている。

 でも、同じような規模の「島じゃない」田舎町では、そんなに愛着や恩返しみたいなことを考えませんよっていう話を聞いたんですね。ああ、そうかと。たしかに地続きだと、ここで町が変わりますよって言われたところで、明確な線がわからないから、そんなに「こっち」は「こっち」って考えないんじゃないかなと。

 それは日本も同じような気がしていて。日本って島国だから「向こう」と「こっち」ってすごく言うけど、世界ってどこなんですか? ということをよく考えないといけないと思うんです。

 世界を知っている指導者といったって、知っているのは多くて3つの国のサッカーぐらいでしょう。だいたいの人は一つの国しか知らない。それがドイツを知っているのか、イングランドを知っているのか、わかりませんが、どこをとって世界というのか。それによって、やっぱり考え方は違います。

 じゃあ、それがスペインの国のサッカーを知っているからといって、日本のサッカーに適用できるわけでもない。これを間違えてしまうと、Jリーグに来ている優秀な監督はなんで(世界を知っているはずなのに)成功しないんだってことになる。

『FootballPRINCIPLES 躍動するチームは論理的に作られる』(JBpress刊)

 (日本代表監督についても)それと同じだと思うんですよね。

 地理的な区別で言いましたけど、年代でも同じです。育成年代で成功した指導者はかならずJリーグでやれば成功するのか。それもまた違う話ですよね。

 国も違えば年代も違えば、いろんな必要なものが変わります。それらを理解した万能な指導者が日本の代表監督になるとは思えないので……。

 だから、ちゃんと評価することが大切です。(日本に)どんな指導者が必要なのか。世界だからどうこうとか、日本人だからどうこうとか、どこの国でやっているからというより、指導者の考え方やスタッフの組み方など、その時々ですべて変わってくるので。そこをひとくくりにすると、間違える気がしますね。

ーー岩政さんとしては、日本代表監督はどんな人物が理想でしょうか?

 そのときに合った指導者になります。今の日本代表を例に出せば、今はヨーロッパでプレーするメンバーを中心に選ばれています。そういう面では、Jリーグのサッカーを作れる監督というより、ヨーロッパのサッカーの作り方ができる監督になります。日本人・海外の人というくくりに関係なく、そういう監督が必要になっていると思います。

 戦術面・戦略面でいえば、具体的な選択肢の「バリエーション」を持つのが今のサッカーです。「中途半端」にならないバリエーションですね。つまりは「徹底」されたものをたくさん持っていること。徹底されていないものをたくさん持っているのが、中途半端になるので。監督として、徹底されたものを持たせることができるチーム作りが必要です。それがバリエーションにつながると思っています。

 あるJリーグの監督も、「今の世界はもうすべてを持っているチームでなければ勝てなくなってきている。そういうサッカーだ」と言っています。

 数年前までは、ストーミングなど、ある一つの形を突き詰めるチームがもてはやされていました。今はポゼッションだけだったらダメだし、ポゼッションもカウンターも、守備もハイプレスもリトリートも持ってないといけない。全部を作れる監督が理想になるでしょう。

 ただ、日本サッカー協会が考えているのは、日本人全体の指導者に対するモチベーションです。日本人が監督になる。これまではずっと外国人ばかりで、日本人が監督になることはなかった。今は森保(一)さんがやっていることで、他の日本人指導者もここに行ける、目標を持てると考えていているじゃないかなと。

 こういうフェーズに入ってきたと言われていますけど、そういう考えもあるんじゃないのかって、個人的には思います。それがいいか悪いかは別ですけどね。

▽『FootballPRINCIPLES 躍動するチームは論理的に作られる』
『FootballPRINCIPLES 躍動するチームは論理的に作られる』(JBpress刊)