読売テレビ立田恭三アナウンサー

 今年で記念すべき第100回を迎える全国高校サッカー選手権大会。その大阪予選を1回戦から取材し続けている「あすリートチャンネル」と「高校サッカードットコム」が初めてタッグを組んだ。スタッフが、数ある〝激アツプレー″の中から、「テクニック」「連携」「豪快さ」などを加味し、独断と偏見で選ぶ“激アツプレー”BEST10!の企画をあすリートチャンネルで実施中。

 この初コラボを記念して、普段あまり見ることのない全国高校サッカー選手権大会のテレビ中継の舞台裏や、実況に挑むアナウンサーの心境などを、数々の試合で実況を担当してきた読売テレビ立田恭三アナウンサーにインタビューさせて頂いた。

ーー取材をされてきて色んな監督さんのお話を聞いてきたと思うんですが印象に残っている事を教えてもらえますか?

 高校サッカーの監督は、専属でやってらっしゃる方もいますが、基本的には学校の先生が大半を占める中で、僕らが社会人になって忘れてしまいがちなことをもう一度教えてもらうというか、もう一度鍛え直してもらうという感じがあって、シャツひとつとっても「袖のボタンが外れてるよ」と、挨拶、身なりからご指摘頂いたり、サッカーとか取材対象者というよりも「まず人としてきちんと接することの大事さ」を教わりました。だからいつも「もっと話を一緒にしたい」という気持ちにさせてくれる方が多いですね。教育者なんですよね。

ーー野球の実況もやられていて、Jリーグもやっていると思うんですが、高校サッカー選手権との違いを教えてもらえますか?

 1年間チームで戦ってきて、勝てばまだ先がある、でも負けたらそのチームで一生サッカーをすることがないっていう。やっぱりその辺の想いがプロとはまた違うなと。「もうこのメンバーで一緒にボールを蹴ることがないんだ」っていうのが負けたら見えるわけじゃないですか?事前取材で、実際どう思っているのかっていうのを選手に聞いてると「このメンバーでもうサッカーが出来なくなる」と想像してしまって、涙を流す選手もいるんですよ。

 そういう想いとか、とにかく、この"アマチュアスポーツの美しい汗と涙"というものをいかに画面の向こう側の人に伝えられるか…、言葉のチョイスであったり、言うタイミング、言うトーンとか、常に意識しているのというのが、プロスポーツの実況との違いですね。

 あとは知名度がほとんどない選手たちであるということ。プロの選手だったら「この選手だったら見たい」とか「このチーム好きだからみよう」とか事前情報が多少なりともあると思うんですが、高校サッカーの場合は"11人対11人の22人の誰一人知らない"という場合もあると思うので、どの選手を取り上げてどういう表現で出せばこのチームは伝わるのかっていうのが大変であり楽しいところだと思いますね。

ーー声のトーンは野球とサッカーで変えているんですか?

 "変える"というか"変わる"。変わっちゃうんですよね。これもプロとアマチュアの違いの話に繋がるんですけど、こちらの仕事としても一発勝負なんですよね。だから先程のオープニングの一音目から裏返ってしまう事もあるし(笑)。それぐらい緊張しているんですよ。もう一発勝負なので。選手たちも一生に一度しかない瞬間で、まさに一発勝負だし、我々も一発勝負。だからその緊張感たるや…プロ野球の中継ももちろん緊張しますが、全然違う種類の緊張感がありますね。

ーー立田さんの後を継いだ平松アナウンサーの実況は観られていますか?

 はい、もちろん観ています。彼は今年で大阪大会決勝の実況が3年目。実際に色々と語り継いでいる部分もあるんですけど、彼なりに自分で吸収していい形で出てるなと思います。伝統と言ったらちょっとおこがましいですけど、私も先輩を見て真似てやってきた事を彼もしっかり見て吸収しているなと思います。

ーー担当された決勝の6年間で5チームが優勝した激戦区大阪大会ならではの難しさとか面白さを教えてもらえますか?

 どこが勝つのか全くわからない、連覇というものが難しいまさに激戦区。僕が離れてからの、ここ数年の大会でも、一昨年は興國が初優勝で、昨年が履正社の久しぶりの優勝という事なので、本当に全然予想がつかないんですよね。ベスト4でさえ中々予想できない、という年も多いのですが、逆にそこが面白いですよね。

 他の地区でここまでの激戦区はないんじゃないですか?僕は放送でも"全国屈指の激戦区"って慣用句の様に何回も言ってるんですけど、まあ全国屈指というより全国一なんじゃないかなっていうくらい強豪ぞろいかなと思います。優勝して全国大会に出場した監督も全国で負けた時には「またいつここに戻って来れるんだろう」って仰いますし。

 だからこそ責任重大というか…大阪大会の決勝で実況した後に、全国大会でも自分が受け持ったチーム(大阪の代表校)の担当として、実況やリポーターなど色んな役回りで帯同していくんですね。ある意味応援団に近い。なので、相手チームももちろんそうなんです。新潟県だったら新潟の放送局が出て来ていて、対決とは言いませんがそういう構図なんですよね。だから、自分の担当するチームが負けてしまったときには、一緒に泣いてしまう時もある。取材者として、その涙は良いのか悪いのかわからないんですが、涙が止まらなくなってしまうんです。選手と一緒に戦っているんですよね。

A4用紙にびっしり書かれたメモ。10%も使われないが「何を聞いてもらっても大丈夫です」が放送席に座る条件

ーー事前に色々と取材しても使わない事も多いですよね?

 そうですね、でも何がきっかけでその話が出るかわからないので。全部が絡み合ってアウトプットするので、どちらかというと"知らないことがあっては許されない"感覚で、"放送席に座るまでに勝負は決まっている"とよく言われるんですけど、その放送席に座る条件というか、"そこを知らずに放送席に座る資格はない"というぐらいで、「何を聞いてもらっても大丈夫です」という状況で放送席に向かっているという事ですね。

 実は、自分が取材をした事の10%を出せればいいところで、10%もいっていないと思います。本当に調べすぎですね(笑)。それでも余りにも準備していくと、"準備したから出したくなる"というのもあって、エピソードがあるから試合中に出したくて狙っていると、試合は動いているので視聴者がいらないタイミングでそれを出してしまうってこともあるので。高校サッカーはそのバランスが本当に難しいと思います。

ーーなにか失敗談ってありますか?

 そうですね、もう噛むのは失敗にカウントしていないです(笑)。選手を間違えたことはなかったと思うんですが、追えなかったことがあって。誰かわからなかった事が正直やっぱり悔しいんですよね。誰がシュートを打ったっていうのが即座にわからなくて、しばらく経ってから喜んでいる中心にいたからわかったっていうことがあって。それはなんで悔しいかって、例えばその大会のハイライトの時にそのシュートシーンだけ使われるんですよね。そのシュートシーンに名前を言ってあげていれば、名前込みでそのシュートシーンが後に10秒ぐらいで使われる訳ですよ。そこに名前を言ってあげれなかったっていう後悔。後から決めたのは誰々でしたって言っても、その中継を観ている人はわかるかもしれないけど、そのシュートシーンだけを観た人には印象付け出来なかったっていうことですから。

ーー色んな方が観ている中でどういう実況が理想だと思いますか?

 大前提、サッカーを観ていて、その瞬間のプレーに関係ない話が出てくると気持ち悪いし違和感がありますよね?でも全く知らない選手たちの試合っていうベースがある中では、プレー以外にもある程度色付けしないと印象にも残らないっていうのもあるので、ここのバランスですよね。結局は我々が考えたフレーズを付けるのではなくて、凄い感動というのはそのプレーに落ちているものだから、「それを絶対に拾うぞ!」っていう意識でやっていかないとバランスが崩れてしまうのかなと思っています。これは永遠のテーマかもしれませんが…。

ーー今年は100回大会という記念大会になるんですが高校生たちにメッセージはありますか?

 高校生で全然注目されていない選手も一つの活躍で物凄い脚光を浴びたり、プレー以外のところで脚光を浴びることもあると思うので、"本当に自分が信じる道を極める"という事をやってくれたら我々は絶対そこに目が行くと思いますし、世間もそうなるんじゃないかなと思うので、本当に自分の信じた道を貫いてほしいなと思います。

ーー貴重なお話ありがとうございました。

 (文・写真=会田健司)

▽全国高校サッカー選手権大阪大会“激アツプレー”BEST10!
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