劇的Vの市立船橋(写真=小室功)

 まさに決勝だけの“限定仕様”だ。タメを作ったり、ボールを前に運べる右SBの加藤想音(3年)を前線に配置するなど、市船は堅守速攻に活路を見出そうとしていた。とはいえ、自陣に引きこもるようなやり方ではない。アグレッシブな守備が立ち上がりから際立っていた。

 流経大柏はその勢いに少し気圧されたのかもしれない。「試合の入りが固くなってしまい、自分たちらしくなかった」と、榎本雅大監督は振り返る。エースの森山一斗(3年)を中心にする攻撃陣が奮起し、徐々にもり返したものの、思うように決定機を作り出せずにいた。

 こう着状態が続くなか、市船にビッグチャンスが訪れたのは69分だ。ディフェンスラインの背後に抜け出した坪谷至祐(2年)が流経大柏のGK松原颯汰(3年)と1対1になったが、好セーブに阻まれ、スコアを動かせなかった。

 試合は0-0のまま、前・後半の80分で決着せず、延長戦に突入。互いに譲らず、「PK戦にもつれ込むのか」と思われた延長後半終了間際、起死回生の一発が飛び出した。

 右からのクロスを受けた市船のMF岩田夏澄(3年)が左足で丁寧にトラップし、すかさず右足を振り抜くと、ゴール左に突き刺さり、ついに均衡が破れる。選手権の県予選前に負傷してしまい、この日が初出場だった8番が決勝の舞台で大仕事をやってのけた。

「自分の長所はシュート力。交代で入ったときから“自分がゴールを決めてヒーローになってやるんだ”と思っていました。それが実現できて本当にうれしいです。ただ、入った瞬間はあまり覚えていません(苦笑)」

 それだけ無我夢中だったのだろう。ゴールのあと、ベンチに向かって一目散に駆け寄り、チームメイトにもみくちゃにされた。身長161センチの殊勲者は歓喜の輪に覆われ、しばらく出てこられなかった。

 激闘を制した市船が2年連続23回目の全国へ――。

「ここがゴールではない。日本一になって、お世話になった監督を胴上げしたい」と、決勝点を叩き込んだ岩田がチームみんなの思いを代弁していた。

(文・写真=小室功)

▽第99回全国高校サッカー選手権千葉予選
第99回全国高校サッカー選手権千葉予選